私が求めるもの

随分昔、田園調布に"サルーン・コリアス"という
カフェがあった。オーナーは様々なことに精通を
していて、カフェという枠を超えた店だったと聞く。

私も若い頃、コーヒーの味を覚えたくて
休みの度に色々な店を巡った時期はあったが
残念ながらコリアスには伺っていなかった。

そして私の知人には、そのコリアスの常連だった
I さんがいる。

I さんは、大々的にブリューワーズカップを
開催するほどのコーヒー好き&通であり、
茶の世界までも熟知している達人だ。
コーヒーや茶に関しての執筆も行っている。

しかし、出会った頃の印象と言えば
とにかく変な人だった。

私が都立大学のダンアロマを開店した時、
毎日のように現れてはコリアスの素晴らしさを
語るのだ。多い日には3度も現れて
他店の素晴らしさを延々と語る。(笑)

正直、始めは勘弁してくれと思う日もあった。
しかし上手く乗せられたというか、
研究好きな上に 負けず嫌いな性格も幸いして
「コリアスが何ぼのもんだよ! I さんが納得できる
コーヒーを造ればいいんだろ!」と
本格的にコーヒーにのめり込むことになった。

後になって考えれば、I さんは私に何かを
感じてくれていたのかも知れない。

それからというもの、朝まで抽出や試飲を
繰り返した。付き合ってくれた常連さんの中には
コーヒーを片手に寝てる人もいる。(笑)
私も30代半ばと若かったから、このような
無理ができたのだろう。
今となっては良い思い出であり、I さんを始め
助言を下さった方々には本当に感謝をしている。

そして16年。1年が早くなったとはいえ
随分と前のことである。それなのに最近になって
I さんのある話を頻繁に思い出すのだ。

「その昔、液体の入ったすごく古いボトルが
見つかったらしい。しかも中身はコーヒーだ。
上には浮遊物、下には澱が溜まっている。
しかしその真ん中の部分は透明感があり、
すくって飲むと驚くほど美味かったんだって!
世の中にはそんなコーヒーがあるんだよ!」と
目を輝かせて興奮気味に語った。

それを聞いた時は 私も若かったので、
「そんな、バカな~!」って笑ったと思うのだが
最近はそんなコーヒーがあってもいいと
真剣に思うようになった。笑い飛ばすのは簡単だが、
そこからは何も生まれないし、そのようなコーヒーが
可能ならば造ってみたい。

羨ましいことに、サルーン・コリアスでは
そういう面白い会話が飛び交っていたという。

私の目標は誰もが美味しいと思えるコーヒーを
造ることだが、それと同時にコーヒーという枠を
超えたコーヒーを造りたいと思っている。

最近は行きたいと思うコーヒー店が少なくなった。
しかし 今でもコリアスがあるのなら
通ってみたい。そこには私が求めている
何かがあるような気がする。
 
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