Only One

「貴方の師匠は誰ですか?」と尋ねられるが、
コーヒーに本格的に取り組むようになってからは
誰にも師事をしなかった。

それはOnly One、誰からも影響を受けていない、
そして誰よりも美味しいといわれる
私だけのコーヒーを造ろうと決めたからだった。

では、目指すイメージや目標がないのかというと
そうでもない。

約30年前、ほぼ何も持たずに上京し、
始めて住んだのは4畳半にコンロが一つという
小さなアパートだった。

夢はあるがお金はないという典型的な若者の
ささやかな楽しみは、週に一度、
珈琲専門店に行くことだった。

その頃の私にとって400円のコーヒーは
決して安くはなかった。

しかし、そのコーヒー代さえ支払えば、ベストに
蝶ネクタイの紳士が、ヨーロッパ調の空間の中で
丁寧に接してくれて現実を忘れられた。

それは私にとって何よりも贅沢な時間だった。

そう、私が常に目標としているのは、
その時のコーヒーかもしれない。

温かくてホッと安らぎ、時には贅沢で、そして優しく、
どこか懐かしい。味だけに限らず、私がこれまで
コーヒーに感じてきた様々な思いや喜びなど、
全てを詰めこんだコーヒーを造りたい。

僅か一杯のコーヒーが、
こんなにも人を幸せに出来るということを
多くの方に知って頂きたいから…。
 
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