適温

中折れ帽をかぶった年配の男性が来店された。
「マンデリンを一杯ください」と…。

随分と雰囲気がある方なので、少し緊張を
しながらコーヒーをお出しすると、一口飲まれて
「この温度で出してくれるところが、本当に
少なくなりましたね」と優しく微笑まれた。

僅かなその一言で、このお客様が
美味しいコーヒーを知っているということが
十分に伝わってくる。

最近は、熱して保温するために風味は飛び
やけどしそうな熱いコーヒーを出すチェーン店が
増えたせいで、当店のコーヒーをややぬるいと
感じる方がいるかもしれない。

でも、新鮮で良質な豆に最適とされる湯温、
82〜83℃で丁寧にドリップされたコーヒーは
決して熱過ぎず、風味が良く分かるという
60℃後半〜70℃で提供される。

繊細な日本人は玉露は60℃、煎茶は70℃と
素材と風味を壊さぬように低温で旨みを引き出した。
有名な紅茶専門店の方も「紅茶は高温が
当たり前になっていますが、日本の軟水の場合、
良質なダージリンなどは80℃位でゆっくり
淹れた方が本当は美味しいんですよ」と仰っていた。

これはコーヒーやお茶に限ったことではなく、
ワインや日本酒だってそうなのだ。
プロは適温を知っている。

いつもお燗を測っていた父の手のひらは、
温度計より正確だった。
 
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