DUN AROMA  (褐色の芳香)


(東急東横線 都立大学駅下車 平町商店街 徒歩2分)


東京都目黒区平町1-22-12
03-3718-4434

営業時間 12:00〜18:00
20:00〜24:00

金、土、日祝前 〜26:00
Closed on Mondays



下記は某誌に掲載された当店の紹介文です。
雰囲気が良くわかると思いますのでそのまま載せました。


  ダンアロマは東横線都立大学駅(渋谷から15分)から徒歩2〜3分程度の町中に98年2月に開店した。今回はこの店のコーヒーの話をしよう。

当初ハイロースト(フレンチやイタリアン)のCAFEとしてオープンしたが、自家ローストの店でマスターが研究熱心の上、仕入素材(コーヒー豆)が上質だったこともあり、次第にそのコーヒー豆の味や香りを生かせるミディアムローストに移行して行き、98年の夏を過ぎた辺りから形になってきた。オーナー兼バーテンダーだからできたという意見は一面では正しいが、挑戦すべきことが多々あり決してやる気だけで乗り越えられるような課題ではない。

例えばミディアムのローストは、ほんの少しの時間差で味が大きく変わる。だから微妙にローストをコントロールしなければならない。それに抽出技術もマニュアル通りにすれば可能なほど簡単ではなく抽出の状況を判断し、それに対応した調整が必要で味をまとめるだけでもかなりの熟練を要する。誰でも簡単に会得できるようなことではない。この店を開くまでのマスターの長い経験と感性があったからこそ、挑戦できたのだし、それをまとめることができたのだ。最近ではほとんど見かけることができない大変貴重で素晴らしい店である。

 コーヒーはハイロースト(良く焼く)すればするほど、香りも無くなり味も単調になる。フレンチ以上のローストにすれば豆の違いはほとんど判らなくなる。逆にどんな豆でもハイローストにすれば、苦みが中心で、他の成分は焼けて飛ぶので、エグ味や渋味など嫌な味は無くなるが、それと共に豆独特の香りや味も消えて、安定したつまらないコーヒーになる。ただし豆を選ばないからコスト的に安くできるし、また抽出技術も高温でさっと抽出すればいつでも一定の味のコーヒーができるので、いまでは喫茶店のほとんどが炭火焼きなどと呼ばれるハイローストコーヒーばかりである。

 そこを敢えてミディアムローストに挑戦する勇気と努力は賞賛に値する。ミディアムローストのコーヒーの難しさは、豆の特性を生かすローストが豆ごとに違うために仕入れた豆の状態(自然素材なので、毎回微妙に異なる)や、その豆の特徴を引き出すために常にローストを調整しなければならない複雑さと煩雑さがある。自家ローストだからできるのだが、その作業は神経を使うし細かくて煩雑だ。もちろん煎った後も日毎にどんどん豆の状態が変化するので、ローストだけでなく抽出のコントロールもとても厄介だ。

 煎った直後はコーヒーが荒いからそれに合わせた抽出方法が必要になる。数日過ぎると大分安定してくるが、それでも日毎に味が変化する。喫茶店からすれば、いつでも同じコーヒーを提供できないと客が安定しないと考えるのが普通である。しかし敢えてその常識に挑戦し、その日の、その豆ごとの状態に適した抽出方法で抽出する。 すると味や香りは毎回微妙に異なり、一定の味ではなくてそのときの変化を楽しめるコーヒーができあがる。考えてみればコーヒーは自然の産物で、工業製品ではないのだから一定の味になる方がおかしい。

 この店の抽出法は一般常識とは異なり、低温抽出である。そのため毎回ポットの湯を温度計で測り、ゆっくりと抽出する。できあがったコーヒーは透明で、豆独特の香りと味が際立ち、豆の違いによってこんなにも味や香りが違うのかを感じさせてくれる。それは、いままでハイローストのコーヒーしか飲んだことのない人にも、豆の違いがはっきりと判るほど確かなのだ。

 そうなれば、自分の好みやその日の気分で飲むコーヒーの種類を選ぶ楽しみが生まれる。また、同じ豆でも毎回味が微妙に異なるので、その変化を楽しめるから、コーヒーの愉しみも何倍にも広がる。それにマスターが真剣で神経質な、行者の苦行のような面持ちの抽出姿は一見に値する。ストイックで気迫のこもったドリップだ。だからこの店に出会った者はコーヒーにハマルのだ。難しい理屈はいらない。飲めばその愉しさ素晴らしさをはっきり感じられるからだ。だからコーヒーが好きでなかった人が人に連れられここに来て、コーヒー好きになることは、この店で日常のありふれた風景なのだ。

 ちなみに上品な甘さ軽い酸味に柔らかい香りで、王道を行くブルーマウンテンに関して言えば、この店のものは、香り、味とも絶品であり、他の追従を許さない。これが本物のブルーマウンテンの良さと断言しておこう。反対に味も香りもくせがあり、コーヒー好きならばこれに行き着くというモカマタリは、モワモワした独特の香りが立ち、コクのあるチョコレートのような深い味わいのコーヒーになる。酸味が苦手と思ってる人にも賞味をお勧めする。バランスのとれたコーヒーに嫌な酸味などない。コーヒー好きの方は一度試してはいががだろうか。また苦味のコーヒーの代表と言われるマンデリンも、この店では甘さがあり、苦みはとても軽く、バランスのとれたとても美味しいコーヒーである。一般に単調な味と思われているブラジルも、この店では甘味と滑らかな舌触りに加えて柔らかな香りのするとても素直で美味しいコーヒーだ。

 この店にはハウスブレンドのアロマブレンドがあるが、これは甘味、苦み、酸味のバランスがとれたとても香り高い優れたブレンドコーヒーである。日によって、甘く仕上がるときがあり、そういうときに当ると、その日一日が素晴らしいものになる。

 外してはならないものにフレンチコーヒーがある。先にも言ったようにミディアムローストの店だが、フレンチもある。しかしここのフレンチは他の店のコーヒーとはかなり異なり、苦味が軽く甘さがあり、香りも甘い。だからアイスコーヒーがとても美味しい。基本的にカフェオレやリキュールやスコッチを使ったカクテルのようなコーヒーにも多用される。夏でなくてもアイスコーヒーを飲む気にさせる、クリアですっきりとしたコーヒーがこの店のフレンチなのだ。独特の香りと味をつくるマスターの技が冴える一品である。

 さてコーヒーの話ばかりしてしまったが、オーナー兼マスターを含めスタッフのサービスや、店の内装など店の居心地について語っておこう。

 この店は、上り坂ストリートの端で先はもう高級住宅街である。土地柄クラス感を感じさせる客が多い。ダンアロマという名は、褐色の芳香という意味でお洒落であるが、それは外観にも共通している。一見小粋なイタリアンレストランのデザイン。カフェバーと思っている人もいるのか店の前まで来て立ち去る人も多い。マスターは、これは一つの結界でこれを乗り越えて来る人がお客さんと笑顔で話す。まさに大人が集うCAFEである。入口のドアを開け店内を見渡すと、奥に長く伸びるカウンターに13席あり2人席が3つという小さな店である。

 マスターの好みだそうだが壁紙にウイリアム・モリスなど使っているし、照明器具に、ミューラーなどのアールヌーボーのアンティークを使うほどの凝りようである。それにダークブラウンのアンティークを思わせる木材で構成された家具や壁が穏やかな空間を創り出している。昼間は外から中が見えないほど落ち着いた明るさの店内で居心地がよい。まるでバーのようなムードが漂っているが、確かにバーに使えるほどの内装だと近くのビストロのシェフの話である。マスターがカウンターで客と対面できる店作りを望んだ結果だ。しかしれっきとしたCAFEでありアルコール類も無い。それにカップもマイセンやジノリ、ヘレンドなど本物の器が日常使いされ、忙しくなければ客がカップを選ぶこともできる。

 こう書くとマスターは渋めの年輩者だと思われるだろう。ところがまったく外れである。マスターの風貌はスペイン系の顔立ちで、口髭を生やせば、そのままマスクオブソロができあがる。服装も白い長袖のシャツにネクタイを締め黒のパンツ&黒靴と格好良く決めているし接客もアダルトなので、女性客が多いのも頷ける。ところが猫の話になると急にお茶目なクラブの黒服のようになる猫好きの青年である。この店の常連で、田中角栄元首相の秘書だった猫好きの早坂氏が最近刊行した著書にもマスターが登場しているので、マスターの猫好きもナショナルブランドになる日も近いかもしれない。

 スタッフは静かで滑らかなサービスを心がけているようだ。キュートで笑顔がチャーミングな若い女性もスタッフの一人。服装は、襟に黒いリボンをつけた白い長袖のブラウスに、黒のロングのエプロンとシックな姿。狭い店内を流れるように動き、いつも笑みを絶やさず優しく接するサービスは心地よい。それにもう一人若者の格好良いギャルソンがアシストしているときもある。ビジュアル系のCAFEがあるとすればこの店のことだ。そして最も大事であるコーヒーがとびきり美味しいのだから言うことない。今回はまださわりしか紹介していないが、これだけ条件の揃った店も珍しい。遠くからでも行く価値が十分にある、5つ星のCAFEである。
伊藤 和成